ウクライナ軍は29日、ロシアが占領しているヘルソン州で、ロシアの「第1防衛線」を突破したと主張した。南部奪還を目指すウクライナが、反撃を開始しているとみられる。対するロシア側は、ウクライナが攻勢に失敗して「大きな損失」を被ったと主張している。
ウクライナ軍の南部の部隊「カホウカ」は同日、ロシアの支援を受けている1個連隊がヘルソン州の陣地から撤退したと報告した。支援していたロシアの空挺部隊も戦場から逃げ去ったという。
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領の顧問を務めるオレクシー・アレストヴィッチ氏も、ウクライナ軍が「数カ所で前線を突破した」と述べた。
補給路をめぐって
州都ヘルソン市と、そこから北東に約55キロ離れたノヴァ・カホウカ市からは、爆発音が聞こえたとの証言が報告された。両市にはドニプロ川を渡るための重要なルートがあり、ウクライナ軍はここ数週間、ドニプロ川の西岸に陣取るロシア軍の主要補給路を断つため、攻撃を繰り返してきた。
ウクライナ当局によると、ドニプロ川にかかる3つの橋を破壊するため、アメリカから供給された高機動ロケット砲システム「ハイマース」を使っているという。
ロシア軍は、補給をこの橋に頼っている。
ロシア国営RIAノーヴォスチ通信によると、ノヴァ・カホウカでは一晩中、電気と水道の供給が途絶えた。
「ロシア兵は逃げる時だ」
ロシアの複数の国営通信社は、同国国防省の話として、ウクライナ軍がヘルソン州と、隣接するミコライウ州で攻撃を試みたと伝えた。攻撃は失敗し、ウクライナ軍は「大きな損失を被った」という。
双方の主張は、独立した検証がなされていない。
ゼレンスキー大統領は29日深夜のビデオ演説で、ロシア軍に向けて厳しく警告。「生き残りたいなら、ロシア兵は逃げる時だ。家に帰れ」と訴えた。
ゼレンスキー大統領とウクライナ政府高官らは、報じられている反撃の詳細について口を閉ざしている。ウクライナ国民には忍耐を求めている。
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ロシア側が住民投票を準備
ロシアは2月24日に侵攻を開始すると、大きな抵抗を受けずにヘルソン市とその周辺地域を占領。以来、ヘルソン州の大部分を占領するに至っている。
侵攻前は29万人が暮らしていたヘルソン市は、ロシア軍が占領した唯一の州都で、現在はロシアの支援を受けた当局者が治めている。
ロシアのタス通信によると、ヘルソン州では、ロシアへの正式加盟を問う住民投票の実施計画を当局者が進め始めている。アメリカはこれを、ロシアが不法に自国に併合する準備をしている可能性があると非難している。
ロシアは先月、ウクライナ東部だけでなく南部のヘルソン州とザポリッジャ州も、軍事的に重視していると述べた。
「原発施設の屋根に穴」とロシア
ロシアが任命したザポリッジャ州当局者は29日、ウクライナのミサイル攻撃によって、ザポリッジャ原発の燃料貯蔵施設の屋根に穴が開いたと主張した。
この主張は、独自に検証されていない。
ここ数週間、ウクライナとロシアの両国は、ザポリッジャ原発を砲撃していると互いを非難している。ロシアは3月上旬に、ヨーロッパ最大の原発である同原発を占拠。それ以来、ウクライナの職員を使って同原発を運営している。
ウクライナのゼレンスキー大統領は先週、ロシアのせいで、同原発で放射能漏れ事故が起こる寸前だったと述べた。
国連の国際原子力機関(IAEA)によると、ザポリッジャ原発にIAEAの視察団が今週、到着する予定となっている。